もうじき始まる新国立劇場の公演「屋上庭園 / 動員挿話」に出演する、小林君と七瀬さんの対談記事が新国立劇場の会員機関紙に以前掲載されていましたので、紹介させて頂きます。
平成17年度(第60回記念)文化庁芸術祭協賛公演
「屋上庭園 / 動員挿話」 新国立劇場 小劇場
10月31日(月)〜11月16日(水〉
出演 七瀬 なつみ 出演 小林 隆
戯曲賞にも名を残す岸田國士の名作を,違う演出家,同じ出演陣による二本立てで上演する今公演。宮田慶子演出の「屋上庭園」は二組の夫婦の会話から人生の有り様が浮かび上がり、さり気なくも奥深い余韻を残す。深津篤史演出の「動員挿話」は、日露戦争へ出征する主人に従うか否かで葛藤する馬丁夫婦を描き、ドラマティックな幕切れに息をのむ。色合いの違う二作に同時に取り組む出演者に、意気込みを聞いた。 インタビュアー:山村由美香◎演劇ライター
数代は一見、この時代だと少し行き過ぎじゃないかっていう言動をしますけれど、
逆に「何故こんな当たり前のことが、表立って言えなかったんだろう」ということを感じます。 七瀬
戦争自体を描くのではなく、ごく普通の職や夫婦の悲劇を描くことによって、これだけ時代をうまく表現できている作品ってすごいですよね。 小林
――お二人は「屋上庭園」では裕福な三輪夫妻,「動員挿話」では主人である少佐に従って戦争に行こうとする馬丁・友吉とそれに反対する妻・数代を演じられますね。
七瀬 私、本を読んで同じ女性として数代にすごく感情移入したんですよ。彼女は一見,感情の起伏が激しくて、この時代だと少し行き過ぎじゃないかっていう言動をしますけれど、逆に「何故こんな当たり前のことが、表立って言えなかったんだろう」ということを感じて、数代さんの叫びみたいなものを表現したかったので、できるのが嬉しいです。
小林 僕も役柄としては友吉にまず惹かれました。だから来たときは、(握りこぶしを引き付けて)「イエスッ」みたいな感じで(笑)。この本を読むと,今もそういう意味では変わらないんですけれど、女性って優秀だと思うし、男って馬鹿だなと思う。戦争に邁進して行く社会の風潮があって、その中でもきちんと自分の考えを追求していく数代さんがいて、ふっと流されちゃう友吉がいる。戦争自体を描くのではなく、ごく普通の夫婦の悲劇を描くことによって、これだけ時代をうまく表現できている作品ってすごいですよね。
七瀬 「屋上庭園」のほうは、男性の友達や女性に対しての見栄の張り方なんかが、いまの感覚とちっとも変わってないなと思いました。並木さんの奥さんは、ご主人を心配しながら支えているしっかりした女性ですけれど、私は三輪さんの奥さんですから、あまり苦労を知らない、ちょっと無邪気で幸せな奥さんかなと。無邪気なほうが罪という感じもしますね。
小林 僕自身が感情移入できるのは並水で、三輸みたいな恵まれた境遇はかけ離れているんで(笑)、そちらはこれからですね。並木のことを分かってあげられる男だとは思っていますけれど。
――二作を違う演出家でやるというのは、役者さんの負担が大きそうですね。
小林 稽古でも演出家はそれぞれのエネルギーで来るでしょうからね。本番も十分か十五分の休憩を挟んでやるだろうから、切り替えは大変だろうけれど,それも覚悟の上で。
七瀬 私は今の小林さんの言葉を聞いて「そうか、そんなに大変になるんだ」と思ったくらい、のんびり構えていました(笑)。今からもちょっと気を引き締めなきゃ。
小林 今回は本当に、お話をいただいてから飛びついたんですよ。いろんな作品にださせてもらっていますけれど、特に最近は三谷幸喜さんですとか、ラッパ屋の鈴木聡さんとか、現代の作家が当て書きみたいにかいてくれる役が多かったら、無意識のうちに自分に近いところでやっていたかもしれないという気がしていて。それを鍛え直すためにも、もともとある名作にこちらから挑むっていう、そういうは持ちがとても強いですね。
七瀬 私も、わりと楽しい感じの作品とか、現代的な会話が飛び交うものに参加することが多かったんです。だから今回は日本語の美しさとか時代背景とか、稽古の中でどれだけ当時の日本人を演じられるようになるかというのが勝負かなと思っています。現代の作品より課題が多いですけれど、それを乗り越えられれば自身がわくんじゃないかなと。
小林 七瀬さんとはドラマ「ぽっかぽか」で、兄妹役でご一緒させていただきましたけけれど、ほかの方や演出家のお二人は初めて。共演者からも力をもらわないとできない作品だと思うのでよろしくお願いします。
七瀬 こちらこそ。